Friday is awesome

SAPについて個人的なメモをまとめたブログです

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グリコのシステム障害から考えるSIer(主にSAP)の問題点(と未来?)

前回のエントリ(グリコがSAP S4 HANAへの切替に失敗したとか・・ - Friday is awesome)に引続き、グリコのシステム障害の裏側にあるSIerの問題点と未来について思ったことを書いてみようと思います。あくまで私の主観的な意見なので、その点はよろしくお願いします。
SIer・・システム開発を請け負うIT企業。NEC/富士通/NTTデータなど
私は、クライアントから請け負ってシステムを開発するシステムインテグレータの業界には2つの大きな問題があると考えています。

①慢性的な人材不足
様々な業界で人手不足が言われていますが、SI業界でも人手不足になっていることを感じます。
①-1 業界が魅力的ではない
SI業界が魅力的ではないため、若い人が入ってきていないのではないかと考えています。新3K(きつい、帰れない、給料が安い)と言われることもありました。
ただ、私の意見としては、他の業界と比較してそれほど給料が低いとは思えません。帰れないことはたまにありましたが。。
一番の問題点は客先常駐型の働き方にあったのではと思っています。つい数年前までこの業界では客先で働くということが当たり前でした。客先常駐のメリットとしては、客に近いところで働くので、コミュニケーションが容易であることや自社オフィスの賃料を下げれることがありまあす。一方でデメリットとしては、自分の会社ではないため色々なルールに縛られることになります。「客先に合わせた勤務時間」、「勤務中の無断外出は禁止」、「机でお菓子を食べてはダメ」など色々あります。同じITエンジニアでもベンチャー気質のあるWeb界隈のエンジニアとは働き方に雲泥の差があります。
こういうこともあり、アンテナの感度高い若い人からは避けられてたのかなと。。

①-2 SAPアップグレードで仕事急増
ERPのメインシステムであるSAPは現行のSAP ERPを2027年(以前は2025年だった)でサポート終了として、それ以降は新製品であるSAP S/4 HANAへの移行を促しています。そのことから既にSAP ERPを導入している企業にとってはSAP S/4 HANAへのアップグレードを迫られています。このアップグレードというのが曲者なんです。通常はソフトウェアのバージョンを上げるだけだと最新版ソフトをダウンロードして
インストールすることになりますが、SAPアップグレードの難しい点は単純アップグレードだと各企業が個別に追加開発したアドオン機能が動かなくなる場合があるので、下記2点が必要となります。
・アップグレードしても既存アドオン機能がすべて想定通り動くことの担保
・想定通り動かない場合は最新版に合わせてプログラム改修する
アップグレードプロジェクトはアドオンの海と格闘することとなります。そのため、アップグレードの時期に差し掛かりSAP関連の仕事が急増しているのです。ただ、これだけだと日本だけではなく外国企業も同じではないかと思われるかもしれませんが、特に日本企業は標準SAPに対して、追加機能を開発しがちだと指摘されています(理由は色々あります・・)


②アドオン多すぎ問題
①-2でも書きましたが、日本企業のSAP導入ではアドオン開発が多くなる傾向にあります。私が思う理由は利害関係です。だいたいのSAP導入企業では、経営層はともかく、現場のユーザ部門としてはSAP導入を快く思っていません。せっかく、自社にカスタマイズした使いやすいシステムを作ってきたのに、SAPに変えるのか・・と
なので、ユーザ向けにSAPのデモなんかすると、ボロクソに言われることもあります。そして、「ユーザ部門」からは現行業務をシステムに合わせて変えるという意識はなくなり、従来システムに合った機能をSAPでも実装したいと追加要件を出してきます。追加要件を対応するほうがいいかどうかはケースバイケースで、本来であれば、精査して開発を決めるべきなのですが、追加機能を開発する「SIer/コンサル」側としては断る動機が弱いのです。なぜなら追加開発すればするほど、開発費を請求できるので。
経営陣がERP導入といったIT事情にそれほど詳しくない。また、「情報システム部門」は「SIer/コンサル」に頼りきりで自分たちで「ユーザ部門」とディスカッションしようとしない。結果、追加開発の精査が十分に行われないまま、なし崩し的にアドオン機能が増えていき、導入・その後の保守が難しいシステムとなってしまう。
※ちなみにアドオン開発自体が悪いことだとは思っていません。アドオンすることで他社とは違う強みを作ることもできますし、元々ITはツールなので、自社の強みとなるような使い方をできればいいですよね。
以上、つらつらと最近のERP導入で思うことを書きました・・

ここからは業界の明るい未来を書いていきます。
従来、SI業界の主要企業は歴史ある伝統的な企業が多かったです。しかし、最近では
コンサル業界とSI業界の境目は曖昧になり、コンサルであっても要件定義など上流工程だけではなく、要件定義~開発~テスト~稼働・保守と実際のシステム開発領域を担うことが増えています。伝統的な企業に比較して、コンサル会社のほうが給与は高い傾向にありますし、働き方の柔軟性も認められやすいと感じています(あくまで私の所感ですが)。残業時間としても、徹夜してでも納期に間に合わすという無理な働き方はずいぶん減ったはずです。
一番大きいと感じるのはコロナ禍を経てSI業界でもリモートワークがある程度定着したことでしょうか。また、通勤を伴う日も以前のように客先へ通うことは大きく減りました。同じ通勤の場合でも、客先で働くのと自社で働くのでは心理的負担は、後者がずっと楽になると思います。
S/4 HANA移行に伴いシステム障害がある程度増えるのは仕方ないかなと。これは今始まったことではなく、過去からずっとアドオン開発してきた「ツケ」でもあるので。現役のエンジニアだけで責任を追うのは酷過ぎますね。
アドオン多すぎ問題については、コンサル依存をなくすこと、つまり、事業会社側でもITへの理解を深めて、自社主導でシステム導入を勧めていくことが大切だと思います。それには経営層の理解も必要となります。グリコはS/4 HANA移行でシステム障害になりましたが、システム子会社の紅栄情報システムではSAP人材を採用しており、そういう意味では内製化途中であったのかもしれません(江崎グリコ本体のCIOがIT子会社代表しています)。近年のAI技術の進化もありITをコストとして考えるのではなく、事業発展の戦略的なツールとして考えるとシステム開発業界もより魅力的になるのだと思います。